=スコアとパート譜の連携対決(1)
楽譜作成ソフトにおける「パート譜の作成機能」の比較をしてみよう。
従来までは「書き出し」コマンドによるパート譜では、それぞれのパートごとに別の新規のファイルとして作成されるものが常であったが、ここ最新のヴァージョンでは、スコアのファイル内に、パート譜の情報を含み、同時に編集や管理することが可能になっている。
「Finale」(以下Fin.)に先駆け、いちはやく連携機能を取り入れたのが「Sibelius4」である。(以下Sib.)Sib.においては「ダイナミックパート」機能と呼ばれる。Fin.も「Finale2007」で対応、こちらは「パート・リンク」という。
互いに呼称こそ違うが、先述した通り、スコアのファイル内にパート譜の情報(レイアウト含む)を合わせて管理するという機能自体は共通である。ただし、実際の細かな編集については、Fin.とSib.それぞれに「できること/できないこと」がある。まず最初にリンク機能における共通のメリットをまとめてみる。
◎ピッチやフレーズの修正を一括で処理できる。
真っ当に思いつく利点はこれだろう。スコアで変更したもの、あるいはパート譜上で変更したものは、それぞれリンクされているので、同時に修正が可能である。これまでの状況でいえば、一度、パート譜を書き出した後に変更が加わった場合は、スコアのファイルを修正、さらにパート譜ファイルを開いて、該当部分を修正と二度の手間が必須だった。長い曲や似たようなフレーズが頻出する曲においては、変更する該当部分を探すのに苦労することもあったが、もはやこんな精神的負担や時間のロスから解放される。これは歓迎である。
◎「書き出し」のミスを最低限の手間で補正できる。
上述の内容と重なるが、ピッチやフレーズの修正だけでなく、その他の楽譜に記される記号もやはり同様にリンクされている。リハーサルマークや冒頭のテンポ表示(ModeratoやAllegroなど)や楽想途中に示されるテンポ変化(rit.やaccel.)などは、スコアでは特定の場所にまとめて表記されのるが通例である。一方で、これらはパート譜では、すべてのパートごとに記載されなければならない。従来の方法で書き出しされたパート譜においては、書き出しの設定ミスで、これらがパート譜に反映されないという事態が起こることは多々あった。厄介なことにこれは書き出しの作業の後に確認されることがほとんどで、その度、書き出し作業を一からやり直しする羽目になるケースが多い。特に長い曲やパート数が多いと、相当な手間になるし、なんせ時間がもったいない。しかし、このリンク機能を利用すると、ミスに気がついた時点で設定を修正することで、全パートに一気に反映できる。極端な例え、ある小節にスコア上でリハーサルマークを追加しても、瞬時にすべてのパートに表示が可能である。こういった芸当はこれまででは考えられなかった。
◎パート譜のファイル管理が確実である。
大編成のスコアだと、それだけでパート譜が20〜30個ものファイル数になる。パソコンのファイル管理の範疇だが、おそらくフォルダを作って管理したりするのが従来だろう。新しい機能では、スコアのファイルの内部にパート譜の情報が埋め込まれており、リストを切り替えることで、それぞれのパート譜ごとの表示ができる。つまりひとつのファイルの中で、スコアとすべてのパート譜がセットになっている状態である。これは管理もスッキリと楽であるし、なによりも、あるパート譜ファイルだけバラバラになったり、紛失するという不安もない。もっと重要なことは、スコアとパート譜の内容が確実にリンクしていることだろう。例えば、楽譜ソフトのファイルは瞬時にコピーできる利点がある(本書p.13参照)から、同じ曲のファイルを少しだけ変更した「修正ヴァージョン」や「別ヴァージョン」などをつくることも多い。その際に、どれがどのヴァージョンのパート譜だかわからなくなるといったこともあっただろう。スコアにパートが内包されているときには、このような問題は起きない。これは楽譜の管理の上で、とても有り難い。
次回は、具体的にSib.とFin.における違いを検討してみよう。
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