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2015.11.11

LcND2015/11「TPPと音楽著作権」

LinkclubNews掲載コラム、11月分より、
タイトルは「TPPと音楽著作権」
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連日ニュース報道されている、環太平洋地域による経済連携協定、つまりTPPでありますが、21とも31分野といわれるようにテーマが広すぎて、一概になんともいえないという感じ。それでも、まだ食や貿易については関心が高いものですが、一方で知的財産に周りについては、どちらかというと一般には関心度が低いのではないでしょうか。

先日発表された、大筋合意報道で、音楽や書籍などの著作権の保護期間が、これまでの死後50年から70年に延長されることになります。平たく言うと、これまでは作者が死んでから50年経つと、PD(パブリック・ドメイン)つまりは公共財産となり、その音楽を使用するのは誰でも自由でタダだよ、となっています。TPP合意によって、この50年の枠が70年に延長されるのです。

さて、結局何が変わるんだろうか? って、すぐさまリアルには想像がつきにくいですよね。そもそも70年っていうのは、すでにアメリカがそうだから、それに準じましょうという国際基準論があります。しかもアメリカにとって知的財産の収入は最重要なので、その分野は絶対に無視できないよ。だから、日本もそれに従ってくれ。というシナリオですね。ちょっと話しは逸れますが、欧米すら以前は保護期間が50年から、さらに20年延長した過去があるのです。それは、あのディズニーですよね、あのキャラクター収入が50年で切れてしまっては大変だから、だったら法律を変更しちゃえっていうことで70年になったという説。(俗にいう「ミッキーマウス保護法」)

日本でも延長の歴史が繰り返されそうです。本題に戻りますが、保護期間が20年延長すると、誰にとって、何が損なのか得なのか? もはやバランスで考えるしかないわけなのですが、概ねデメリットが多いと思うのです。例えば、保護期間延長で著作物の権利者にメリットが多くなるような錯覚すら覚えますが、そもそも作者当人は死んでいますので、結局は遺族、子孫とかが権利や収入を継承していくのです。もちろん歓迎に値するのかもしれませんが、そもそも、その音楽コンテンツが没後も、どれだけが市場で利用され続けられるのか? という最大の問題があります。おそらく現在、没後50年ですら死蔵する可能性が高いのに、それがさらに延長することで、その時代まで生き残れるコンテンツは、さらに減少するでしょう。

もっと単純なところでは「孤児著作物」問題。経年の中で、権利者の把握が難しくなっていくということです。子ならまだしも、孫世代になると、もはや管理すら難しく連絡もままならない。これも死蔵に直結する事態でしょう。当方も、作家の端くれとして、今回の状況を捉えてみたとしても、生存中に作り出す作品のほとんどは見向きもされませんし、万が一、死後少しでも発掘して利用してもらえれば僥倖の極みですから、そんなわずかな期待すらも見込めない法律改正など考えにくいのです。限られた一部のキラーコンテンツを生み出した権利者だけに莫大なメリットがあることは理解できますが、果たしてどれだけの人が喜ぶのか、デメリットを感じる人が多いのならば、それを受け入れることは、グッドチョイスではないでしょう。

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