来週、29日、静岡大学吹奏楽団にて初演される
「Reminiscence for the future -A Tribute to 6 -」の創作メモ。
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今回の作品へのリクエストは、紛れもなく「チェレスタとパーカッション」をフューチャーした吹奏楽曲ということ。
発想の核となったのは『6』という数字である。これは、故人の愛称(ニックネーム)であるということ。この『6』を今回の楽曲へのキャラクターへ忍び込ませていく。
曲は、当然6つの部分から成ると言いたいが、演奏時間8分程度では各部が散漫になりがち、よってここでは、オーソドックスに3つのチャプターから構成。それぞれに打楽器群を振り分けるアイディアを盛り込む。つまり【第一部】は金属系パーカッション、【第二部】は木質打楽器、【第三部】膜質(いわゆる太鼓系)パーカッションである。
〈チェレスタ〉の語源でもある「天上の声」というイメージは強力なもので、今回の委嘱の経緯や背景とも完全に重なる。そのイメージは楽想として活かす方向で。以下、楽曲を時間軸に沿って、着想やキャラクターをまとめておくことにする。
・冒頭は、金属打楽器によるクリスタルサウンド。ここでは、モティーフとして《完全4度》の単音による上昇音列のみが示される。いわゆる「永遠」とか「透明」のイメージ。とはいえ、楽器との組み合わせパターン、そして拍節感が詰まっていく感じは意外にも悩み抜いたもの。ちなみに《完全4度》へのこだわりは、前回の吹奏楽曲「リチェルカーレ」(陸上自衛隊東部方面音楽隊委嘱)からの引き続いたテーマであり、作者としては[連作]の意味合いも込めている。
・続いて、チェレスタのソロ。ここでも控えめな3度音程による8分音符の2度上昇音型のみが提示。これが主要動機。これ以降、随所に鏤められる(散りばめられる)。チェレスタの音色感とシンプルなハーモニー感。コードとしては冒頭の完全4度の反復進行に寄る。
・金管楽器によるコラール、最初の主題(第1テーマ)である。ゆったりとした神聖なイメージをふくませる。引き続き、同テーマが木管へと移行。チェレスタも動機音型を伴って加わる。
・チェレスタのソロで、第2テーマ。伴侶として冒頭のイメージの打楽器群。
・動機音型をテュッティで盛り上げる。4度進行と4度堆積のコードを伴う。クライマックスに達したところで、チェレスタと金属打楽器によるクリスタルなイメージが瞬間的に浮き上がる。
・『天上のコラール』をヴォカリーズで。ちなみに、ここは練習番号『6』であり、このアイディアは指揮者のM先生のもの。このコラールをもって、第一部が完結。
・第二部、一転してミニマル風に。最初のフレーズはマリンバで示される。(後半ではクラリネット群も参加)チェレスタには、5度跳躍(音階上では4度と同じ音値)を多用した素早いパッセージが提示され、これは間歇的に反復される。ミュートを伴う金管群(後に、サックス群も)が3つ目のフレーズ。シロフォンが4つ目のフレーズ、5つ目のフレーズはフルート群に(16分音符6つ+16分休符1つ=16分が7つの連鎖からなるフレーズの反復。そして6つ目として、ベース群が重なる。最高で『6』つのミニマルフレーズが織り編み込みとなる。やや短めの展開と第一部を回想するブリッジを経過して、第三部へと。
・第三部は6/8のリズム。これまでの動機群(4度上昇反復するコードとベースラインの5度跳躍フレーズ)を伴い、木管群で軽快に示される。〈タ・タンタン・タ〉という特徴的な音型は、拙作「マリーナの小径」(ユーフォニアムとテューバのアンサンブル)で多用したもの。ちなみに、委嘱のきっかけとなったOさんとの出会いのきっかけとなった思い出の委嘱作品からの引用でもある。
・太鼓系パーカッションへとリズムが引き継がれ、さらに7/8のリズムが4小節挿入される。(7×4=28)ちなみに『6』がもつ数学的性質のひとつ、最初の完全数というのがある。(完全数とは、その数自身を除く約数の和が、その数自身と等しい自然数のことである。例えば 6 (=1+2+3)、28 (=1+2+4+7+14) が完全数である。)『6』の次にあたる完全数28が、7/8×4の形で示される。ここのチェレスタは主要動機と4度反復の融合型である。
・4度堆積のベルトーンによるイントロを伴い、最初の第1テーマがテュッティで奏でられる。合いの手的な木管群のフレーズには、動機音型や第三部の冒頭リズム型との関連が認められる。引き続き7/8へと拍子が拡張、次に8/8と拡大し、allargandoの表情へと引き上げられる。
・クライマックスで『天上のコラール』が再現される。テュッティで、かつフォルテシモで。吹奏楽曲の典型的でオーソドックスな天頂部の雰囲気で。
・昇りきったところで、瞬く間に冒頭のイメージへと引き戻される。打楽器群も金属群へと移行。回想的雰囲気でチェレスタが訥々とした印象で第2テーマを奏する。(6/8のリズムへと変換)さらに、クリスタルなパーカッションが添い遂げる。終始部で『天上のコラール』がヴォカリーズが再現される。ここは、やや穏やかな印象で。
・一旦、終結したところで、ティンパニーが思い出したかのように、ベルトーンを導き出す。一気に急激な盛り上がりを経て、高らかな主和音へと。ティンパニーの乱舞と楽器群の咆哮(あるいは彷徨)をもってカットアップ。また静寂なイメージへと引き戻され、クリスタルサウンドの中、チェレスタの開離配置の深淵なユニゾンの響きで消えていく。